賛否両論がある、早期英語学習(教育)です。
従来は本格的な教科としての英語の学習は中学校から開始されてきましたが、2020年度からは小学校から始まります。


言語の習得には時間も労力も必要とされることは、経験的に何となく理解できることだと思います。習得に時間がかかるのだから、スタートは早いほど良いと言われるのは当たり前のようですが、実際のところはどうなのでしょうか。
この記事では、早期英語教育のメリットが語られる上で、ほぼ毎回のように引き合いに出される「臨界期」とは何なのかを探ってみたいと思います。
臨界期説
早期に英語学習を始めるメリットの根拠としてよく言われるのが、幼いうちは脳の柔軟性や吸収力が高いため、外国語をスムーズに学べるだろうと言う仮説です。
この仮説は「臨界期説」と呼ばれ、Lennenbergの1967年に出した”The biological foundations of language”と言う論文に詳しく書かれています。
「臨界期」を英語では“Critical Period”と言い、何らかの学習が可能とされる、ある一定の期間のことを臨界期と定めています。
言語習得以外に臨界期があるとされているものに「絶対音感」があります。
音の高さを音名で把握することができる能力です。


このような能力を習得するには、ある特定の年齢までに訓練をしないと身につかないようです。
言語に関しては、幼少期から思春期の間ぐらいが臨界期だとされています。
この期間では、言語の刺激に対して敏感であり、自然な言語習得がされると報告されています。
臨界期(だいたい12~13歳)以後になると、言語習得能力が衰え始め、脳の可塑性が失われてしまい、新たに習得するのは困難だと主張されています。
このLennenberg(1967)の報告は、一般的な人間社会から隔離されてしまった人達や、聴覚に障害があることの発見が非常に遅れ、母語の学習を開始した時期が臨界期以後になり、最終的に母語を習得することが出来なかった、と言う調査に基づいています。
このLenennbergの報告以降に、第二言語習得研究界でも、子どもと成人の言語学習における最終到達度に差異はあるのかが、盛んに研究されています。
実は臨界期の時期がそもそもいつなのかは、研究者によって意見が分かれています。
「臨界期」ではなく、「敏感期:sensitive period」と呼ばれることもあるのです。
Patkowsky(1980)は、学習習得能力は失われるのではなく、徐々に低下すると考え、敏感な時期と言う意味で「敏感期」と呼んでいます。
また、「臨界期」は複数あり、語彙・文法・発音などの領域において異なる臨界期が存在すると主張する研究者もいます(Seliger, 1978)。
「臨界期」に関する報告は盛んで、肯定する研究も、懐疑的な研究も多くあります。
肯定する研究
・中国人と韓国人の46名のアメリカへの移民者が、移住とした年齢が若いほど、英語能力到達度が高かったとする研究 (Johnson & Newport, 1989)
- 67名のアメリカへの移住者を対象にし、移住のタイミングが思春期前か後かで、英語力に差があることを見つけた研究(Patkwoski,1980)
懐疑的な研究
- 臨界期を過ぎたフランス語学習者である7人のアメリカ人学生のフランス語を録音したテープを、フランス語を母語とするカナダ人が聞いたところ、5人がフランス語母語話者として判断された(Neufeld,1980)
- 成人のオランダ語母語話者が、英語の文と単語を音読し、イギリスの英語母語話者が評価したところ、発音は英語母語話者のレベルと変わらないと評価された (Bongaerts, 1999)
このような研究は他にも多数あり、「臨界期」に関しての共通の見解は実はあまりありません。
しかし、「発音」については臨界期があるのだろうとする英語研究者は多くいます。


年齢は低いほど、様々な音声や音を無理なく受け入れたり、英語を分析するのではなく、まとまり(かたまり)として吸収できると言われています。
外国語の習得に関しては、年齢の影響を最も受けるのが音韻であるとされています。
幼少期に英語学習を開始する上で最も重要なのは、英語の音に沢山触れておくことかなのかもしれません。
やみくもに英語学習をするのではなく、効果的な英語学習を進めて行きたいものですよね。