「学習指導要領」の改訂を通して改革されていく学校教育。外国語教育においては、2020年度から小・中・高校で大きな改革が始まっています。
教育現場では新たな態勢を模索している最中だと思うのですが、改革によってどのような影響が見込まれているのでしょうか。そのメリットとデメリット、さらに出てきた課題に対する新たな施策についてまとめました。
■概要
・小学校の英語教育改革の概要
・小学校で英語教育を行うメリット
・小学校で英語教育を行うデメリット
・教科担当制の導入か
・おわりに
■小学校の英語教育改革の概要
新たな学習指導要領において、こと小学校の英語教育は、全体的に前倒しになっています。従来は5・6年生で英語に慣れ親しみ、中学校から本格的な英語教育が始まるという位置付けでしたが、2020年度からは、3・4年生から週に1コマ、英語の時間が設けられるようになりました。
以前この情報をお伝えした記事でまとめた、改革の概要が以下です。


■小学校で英語教育を行うメリット
□「聞く」「話す」能力が伸びる
英語学習は、“単語の暗記”や“文章の読解”といった座学に偏りがち。
しかし、3年生から「話す」「聞く」を重視した外国語活動が導入されたため、それらのスキルを早い段階で身につけることが期待されています。
□異文化に親しむきっかけ作りになる
英語必修化を受け、ALT(外国語指導助手)を増員する自治体もあります。


子どもにとってALTとの対話は、実際に外国人と英語で話す機会であり、異文化コミュニケーションに興味を持つきっかけにもなります。
知識だけでなく、「英語を使ってコミュニケーションをとる」経験を積むことが想定されているでしょう。
□中学以後の英語学習がよりスムーズになる
小学校の早いうちに英語にふれておくことで、従来より余裕をもって、中学英語までステップアップするための期間や段階を準備することができます。
(参照:https://miranobi.asahi.com/article/3501)
■小学校で英語教育を行うデメリット
□十分な学習効果がない可能性がある
日本人が外国語を習得するためには、2500~3000時間の学習が必要と言われています。
英語必修化後の学習時間は、
3~4年生で、年間35コマ=週1コマ。
5~6年生で、年間70コマ=週1~2コマ。
つまり、英語が必修化されたとしても、毎日授業で英語にふれられるというわけではありません。
上記の新たな学習指導要領をもってしても、義務教育での英語学習時間数は630時間を下回ります。
習得目安時間に到達するためには、中学卒業後、それまで経験した英語授業の4倍以上の時間を確保しなければならない計算になります。


さらに高校・高校卒業後の学習時間は、学校や個人の選択によって大きくばらつきがあるため、全体としてはこの2020年度からの改革後も、学校の授業だけで“2500~3000時間”の壁を越えることはかなり難しいでしょう。
このような授業頻度や時間の長さの観点から、小学校の英語必修化の効果を疑問視する人もいます。
□英語教育関連の人材不足
英会話教室を運営する「イーオン」が小学校教員270人を対象に実施した調査(2019年)によると、5、6年生の英語を「教科」として指導することについて、66%の教員が「あまり自信がない」もしくは「自信がない」と回答しています。
英語の指導経験が少ない教員の指導力や英語力などの教員養成が課題となっており、各校で手探りの状態が続いています。
(参照:https://miranobi.asahi.com/article/3501)
■教科担当制の導入か
英語の必修化に伴い教員にこれまでより高度で専門性の高い指導が求められ、人員不足という課題も上がる中、小学校でも「教科担当制」を導入するべきだという声が上がっています。


小学校では、教員1人が1クラスを担当する「学級担任制」が主流ですが、新たな教育改革により、英語の必修化・プログラミング教育の必修化など、教員に高い専門性が求められており、負担も大きくなっています。
文部科学省の中教審(中央教育審議会)は、専門性が高い教員が児童一人一人の学習の習熟度に応じて指導できるよう、令和4年度をめどに小学校5年生と6年生の授業を対象として、中学校のように教科ごとに専門の教員が教える「教科担任制」を本格的に導入するよう求めています。
導入の対象は、算数・理科・英語の3教科で、ICT=情報通信技術を活用しながらの指導が提案されています。
文部科学省は、中教審からの声を踏まえて「教科担任制」の導入を進める方針です。
(参照:https://www.nhk.or.jp/politics/articles/statement/52498.html)
■おわりに
今回の「小学校の英語必修化」の効果に対する疑問の声はあるものの、子どもたちにとっても、教員にとっても、これまでとは違う大きな変化が求められています。
専門性の高い人材の不足など、取り組み始めたからこそ改めて表に出てきた課題もあり、それに対する施策も検討されていました。
子どもたちの将来のため、という本意をぶらさず、より良い仕組みづくりの模索が続けられることを願います。